給与計算とは、毎月決まった日に遅れることなく従業員へ給与を支給するために、正確に金額を算出する業務です。そのためには、給与所得から控除される社会保険料、所得税や住民税について考慮する必要があります。そこで今回は、計算の手順や、注意すべき点について解説していきます。
総支給額には、基本給の他に、残業手当や休日出勤手当、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども含まれます。総支給額から社会保険料や所得税、住民税を差し引いて、従業員への支給額を算出します。
給与から差し引いた社会保険料、所得税や住民税などの税金については、それぞれの期日までに会社(事業所)が納付します。社会保険料については、日本年金機構(年金事務所)から届いた納入通知書を基に、振込や口座振替等の方法で納付します。所得税は税務署へ、住民税は従業員の居住する各自治体へ、それぞれ給与を支払った月の翌月10日までに納付します。
従業員の時間外労働や休日出勤時の手当については、労働基準法で定められている一定以上の割増率を加算して支払う必要があります。これを割増賃金といいます。
割増率については、時間外労働分が25%、休日出勤分が35%以上となっております。また、22時から翌朝5時までの時間帯については別途、深夜手当として25%割増す必要があります。
労働時間を計算する際は1分単位で全て含めるのが原則です。1時間の労働時間にあたり、端数を切り捨てることはできません。ただし、通算で1ヶ月の労働時間につき、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げることは認められております。
尚、月60時間超の残業は、割増賃金率が引き上げられます(2023年4月1日より適用)。現行では、割増賃金率が大企業では50%、中小企業では25%とされていたところ、大企業・中小企業ともに50%と改定されます。正しく計算するためには、割増賃金や労働時間についても注意が必要です。
【参照】東京労働局「しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
従業員へ支給する通勤手当や通勤定期券は、一定の限度額までは非課税となっています。
尚、この限度額については、非正規雇用者についても月単位で計算します。
【参照】国税庁 No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2582.htm
控除対象については、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険といった社会保険料、所得税・住民税があります。
健康保険・介護保険、厚生年金保険については、会社(事業所)が加入している制度が「協会けんぽ」か「健康保険組合」で負担する割合も異なります。協会けんぽであれば、会社(事業所)と従業員で保険料の割合を折半の上、毎月の給与より天引きします(尚、社会保険料は、年に一度改定されます)。
雇用保険は、実際の給与支給額に保険料率を乗じて算出します(尚、雇用保険料率は事業の種類により異なります)。
所得税は、総支給額より社会保険料を控除後、扶養人数に応じて決定します。
住民税は、各従業員の居住する各自治体より、6月から翌年5月までの住民税額を算出した決定通知書が届きます。こちらを基に、毎月の給与より天引きします。
【参照】厚生労働省 雇用保険料率について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000108634.html
給与支給日になったら、算出した給与の手取り額を従業員に支払います。金融機関の口座へ振込む場合は、支給日に振込みが完了するように手続きを済ませます。金融機関ごとに指定日振込を利用する場合は○営業日前までにといった規定がありますので、手続き期限日も予め確認しておきましょう。
また、所得税・住民税は支給月の翌10日までに納付しますが、支給日によっては納付期限までの日数が少ないので、遅れないよう注意しましょう。住民税は、基本的に毎月の納付額は一定ですが、納付対象者の従業員が退職すると、納付額が変わりますので、確認し正しい金額を納付しましょう。
給与計算は複雑な業務で、様々なことに注意を払う必要があります。注意点が多い分、ミスが起こる可能性も高いのですが、ミスは担当者の責任では済まず、会社の信用にもかかわってきます。担当者の意識付けだけでなく、会社としても、ミスを起こさない体制づくりや、対策を立てることが重要です。次回のコラムではどのような対策が有効か、具体的なミス事例も交えて解説していきます。